Think Bee! NARRATIVE
#河合吾郎

【アトリエ探訪】#001:職人の魂が宿る「裁ち鋏(ばさみ)」

2023.09.01
スペシャルコンテンツ

幼少期、裁ち鋏に魅せられて。

株式会社はちやは1898年に創業。鹿児島で足袋の卸売りからスタートし、和装小物をメインで扱っていた会社だったが、ヨーロッパのインテリアファブリックを輸入してバッグを制作するように。1977年に現会長である河合史郎氏が「Think Bee!」のブランドを立ち上げ、現在に至るまで数々の作品を生み出している。

史郎氏の子息であり、Think Bee!のデザイナーである河合吾郎氏は、幼少だった頃の自分を思い出すように、当時を振り返った。
「会社が家のすぐ近くだったので、僕は学校から帰るといつも会社に行って遊んでいました。会社といっても当時は商店のような趣の町工場で、ちりめんでできた巾着袋や小物がたくさん積まれているような感じでしたね」

この、会社であり、ものづくりが実際に行われていた工場が吾郎氏にとっての”遊び場”だったと語る。「僕は幼い頃から鋏が好きで、いつも鋏で何かを切っていた記憶があります。とにかく何かを切りたくて、いつも工場に入り浸っては裁断の手伝いをしていたんです。そのおかげで手は傷だらけでしたがね」

今回は吾郎少年の心を虜にし、今もなお吾郎氏が深くこだわりを持つ「鋏」にフォーカスを当てる。

磨き、こだわり、深まるもの。

「生地を切っている時、鋏(はさみ)と自分が一心同体だと感じることがあります」。

プロダクトを形作るテキスタイルを扱うデザイナー・職人にとって、「鋏」というものは命に等しく、あるいは極めて神聖なもの。「鋏をテーブルに置く時もそっと置くし、床に落とすなんてもってのほかで。たまに落とす人間がいますが、見てるだけでイラッとしますね」吾郎氏が鋏と一心同体になる瞬間があると語るように、デザイナーと鋏との間には愛情や愛着を越えた絆のようなものが存在するのだろう。その鋏を煩雑に扱う人に対して怒りを抱くのも頷ける。

そして吾郎氏は、自身が所有する鋏たちについて語り始めた。「この鋏のほとんどは、錆び付いて開かないくらい古いものでした。蚤の市で購入して錆を落として磨き上げて魂を吹き込んで命を宿す。その時間が最高に楽しいんですよ」と、その偏愛とも呼べるような鋏への想いがあふれ出す。Think Bee!のバッグがなぜ「商品」ではなく「作品」と呼ばれるのか、それはもう語らずとも理解することができる。

磨き上げられた鋏で次はどのような作品が生み出されるのだろう。今日もアトリエに、鋏の刃が擦れる音が鳴り響く。